建築用石材(御影石)の価格が変動する理由を知りたい…。
建築用石材の価格が変動する主な理由
- 需要と供給のバランス
- 原材料の輸入元の多くを占める中国の影響
- 為替の影響
建築物に使用される石材には様々な種類がありますが、本記事では一般的に建築部位で最も使われる石種の"御影石"を対象としています。
需要と供給のバランス
建築用石材の価格が変動する基本的な考え方は、需要と供給のバランスです。
需要(消費)>供給(生産)になれば価格は上昇傾向に、供給(生産)>需要(消費)になれば価格は下落傾向となります。
ただし、石材は材料の特性上、他の多くの資材と比べて生産に手間がかかることから、供給上の制約に影響を受けやすいともいえます。
日本国内の石材需要
御影石は、主に外壁材や内壁材として高級感のある空間とするために利用されます。
商業施設やオフィスビル、ホテル、マンションなど様々な建築用途で使われますが、建築物全体に占める割合は少ないため、石材需要の統計的把握は難しいのが正直なところですね。
本記事では、石材(御影石)の日本国内における需要を把握するために、指標として建築着工床面積を利用しました。
上図では、石材(御影石)が使用される可能性の高い建築構造物として、鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)、鉄筋コンクリート造(RC造)、鉄骨造(S造)の3種にしぼって着工床面積の推移をみています。
リーマンショックが起こった2008年より前の着工床面積と比べると、近年は大きく水準を落としていることがわかります。
また華やかなバブル期では派手な建築物が多く、高価な石材が使われることも多かったものの、近年では全面ガラス張りのカーテンウォールの普及や、経済的な設計が好まれる時代背景から石材を前面に印象づける建物は少なくなった印象ですね。
石材供給の動向
上図は、花こう岩(御影石)の輸入量推移を示しています。
ただし、花こう岩は"墓石"などにも使われるため、上図のすべてが建築用石材という訳ではありません。
2018年時点で「国内で流通する墓石のうち中国からの輸入品が8~9割」と言われており、(参照:日本経済新聞2018年8月3日記事:日本石材産業協会による)建築用石材においても輸入品が8割以上を占めると想定できます。
上記より、建築用石材の花こう岩(御影石)は、輸入品の影響が強いことがわかります。
2005年まで花こう岩の輸入量は7万トン以上で推移していましたが、2006年以降に減少し始め、2022年には3千トンの水準まで大きく減少しています。
"需要が減少した結果、供給量も減少した"ともいえますが、供給量が少ないと相対的に供給>需要となるため、近年は価格が下がりにくい状況になっていると考えられますね。
輸入の多くを占める中国の影響
上図のとおり、日本が花こう岩を輸入する国は"中国"が約9割と大半を占めています。
国内で流通する花こう岩の約8割以上が輸入品と想定でき、そのうち約9割が中国とすると、花こう岩(御影石)の約7割は中国の影響が大きいと考えられます。
為替の影響
花こう岩(御影石)の大半が輸入品であることを考えると、為替の影響は見逃せません。
円安になると輸入品の価格が高くなり、日本国内の花こう岩(御影石)の価格に転嫁されます。
上図は、花こう岩(御影石)の輸入先の中国人民元に対する円の為替レートを示しています。
短期的には上下の変動があるものの、ここ10年ほどは円安傾向のトレンドがあるのがわかりますね。
円安が進むと輸入品の価格が上がり、日本国内の花こう岩(御影石)の価格も上昇傾向となります。
輸送コスト
資材そのものの価格だけではなく、石材を加工してから建設現場に運ぶ「輸送コスト」も、花こう岩(御影石)の価格に影響を与えます。
近年は運転手不足や燃料費の上昇によって、日本国内の輸送コストは上昇傾向にあり、資材価格に転嫁されています。
建築用石材の価格動向
上図は、建築用石材(花こう岩)の価格動向を示しています。
ここ10年は段階的に価格が上昇し続けていることがわかります。
需要だけ見ると、建築需要の減少にともない石材の需要は減少していると言えますが、国内の供給力は限られていることに加えて、石材の生産は安易に生産を増やせる資材ではありません。
需要が減少しているからといって、価格は下がりにくいのが実情です。
さらに中国からの輸入品が大半を占めるため、中国におけるコスト上昇が大きく反映されやすいと考えられます。
"中国産の石材の方が安い"と言われ、国内産から海外輸入品に切り替えたのも昔のこと。
そこから中国は経済発展を遂げ、採石を行う人件費も上昇しています。
経済が停滞していた日本国内から見ると、当然輸入コストが上昇してきたことは明らかですね。
まとめ
石材は大量生産が難しいため、需要の大小よりも、供給側の事情が大きく反映されている資材です。
現状では国内ではほとんど生産されていないため、輸入先の中国の経済動向に着目するのがポイントと言えますね。
円安や中国におけるインフレが進めば、相対的に日本国内の花こう岩(御影石)の価格は上昇傾向となります。
【参考資料】
- 石と建築:材料と工法
- 日本経済新聞
本記事は、一級建築士であり設計・積算・工事監理から建築コストコンサルの経験がある著者が、第三者の立場から考察した記事です。