原油の価格が変動する理由を知りたい…。
原油の価格が変動する主な理由
- 需要と供給のバランス
- 産油国の政策や地政学的リスク
- 投機資金や先物市場の影響
- 為替の影響
需要と供給のバランス
原油価格が変動する基本的な考え方は、需要と供給のバランスです。
需要は世界で原油がどのくらい消費されるか?供給は世界で原油がどのくらい生産されるか?というイメージです。
需要(消費)>供給(生産)になれば価格は上昇傾向に、供給(生産)>需要(消費)になれば価格は下落傾向となります。
日本は原油のほとんどを輸入に頼っているため、世界の需給動向が日本の原油価格に直結します。
需要(消費量)
上図は、世界の原油消費量の推移を示しています。
世界の原油消費量は20年以上増加傾向で推移していますが、リーマンショックが起こった翌年の2009年、新型コロナウイルス感染が流行した2020年は大きく減少していることがわかりますね。
消費量が減少している年に共通しているのは、世界的な不況が起こっている点です。
つまり世界的に世の中の活動が停滞した結果、原油の需要(消費量)が減少したのです。
上図は、世界の原油消費量を国別の割合で示しています。
2021年の原油消費量はアメリカが世界トップで18.9%を占めており、次いで中国が16.9%を占めています。
日本は世界4位の3.6%となりました。
世界最大の原油消費国のアメリカ、人口の多い中国・インドの3か国で全体の約4割を占めているため、この3か国の政治・経済動向が原油価格に与える影響は大きいですね。
供給(生産量)
上図は、世界の原油生産量の推移を示しています。
生産量は消費量(需要)と概ね同じ傾向で推移していますね。
上図は、世界の原油生産量を国別の割合で示しています。
2021年の原油生産量はアメリカが世界トップで16.8%を占めており、次いでロシアが12.7%を占めています。
またサウジアラビアなど中東諸国を中心としたOPEC加盟国が全体の35%を占めています。
産油国の政策や地政学的リスク
世界の原油需要に関係なく、産油国の政策によって原油の生産量が抑えられる場合があります。
生産量が少なくなると、供給(生産量)に対して需要(消費量)が大きくなるため、価格が上昇します。
また原油生産国や消費国の政治的対立などによっても需給バランスが崩れ、価格が大きく変動する場合があります。
年代 | 価格 | 理由 |
---|---|---|
1973年 | 上昇 | オイルショック:アラブ諸国の一部が、原油輸出を停止 |
1979年 | 上昇 | 第二次オイルショック:イランが原油輸出を停止 |
1990年 | 下落 | 湾岸戦争後、サウジアラビアが増産 |
2008年 | 上昇 | トルコのイラクへの空爆、ナイジェリア紛争、イラン・イスラエル間の緊張 |
2011年 | 上昇 | リビア内戦によりリビアが原油輸出を停止 |
2014年 | 下落 | アメリカのシェールガス革命・OPECの増産 |
2018年 | 下落 | アメリカと中国の貿易摩擦 |
2018年 | 上昇 | 米トランプ大統領がイラン核合意からの離脱を表明(イラン原油取引禁止) |
2019年 | 上昇 | OPECプラスの減産合意 |
原油価格は世界の景気動向を反映して常に変動しているものの、上表の例のように、紛争や貿易摩擦が起こったときに大きく価格が動いています。
為替の影響
日本は原油のほぼ100%を輸入に頼っているため、為替の影響を受けやすい特徴があります。
年代 | 為替 | 理由 |
---|---|---|
2011年 | 円安 | 東日本大震災により円売りが進んだ |
2013年 | 円安 | アベノミクス政策による金融緩和策が円安を促進 |
2018年 | 円安 | 米中貿易摩擦によりドル高円安が進む |
例えば、上表のように円安が進むと輸入価格が高くなり、影響が大きいですね。
金融市場の影響
原油価格は、基本的には世界の景気動向による需要と供給のバランス、産油国の増産や減産といった政策、戦争の影響で変動します。
ただ、投機資金の流入など金融市場の影響で短期的に価格が大きく影響を受ける場合があります。
原油の価格動向
上表は、近年の原油価格の動向を示しています。
2021年10月~12月の急落
2021年の10月~12月にかけて、原油価格は約1割下落しました。
この時期は新型コロナウイルスの変異株であるオミクロン型の流行によって世界経済が減速する懸念が広がったことが要因とされます。
2022年上半期の上昇相場
2021年第4四半期の急落から、2022年に入ると一転して上昇し、22年上半期は上昇傾向が続きました。
2022年上半期に原油価格が急上昇した要因は、主に以下が挙げられます。
- OPECプラスの生産量が目標より少ない
- UAE(アラブ首長国連邦)の石油施設が爆破し攻撃を受けた
- カザフスタンでは、燃料高を背景にデモ隊と治安部隊が衝突
- リビアは主要油田の生産を停止
- メキシコの国営石油会社は22年の輸出を半減する表明
- 2021年末に懸念された、新型コロナのオミクロン型の影響が軽微になると観測
- 新規油田の発見が減少
- ロシアのウクライナ侵攻により、世界生産量の約1割を占めるロシア産の原油輸出が制限された
- 5月末頃:EU(欧州連合)がロシア産石油の輸入を停止
- 6月:アメリカがドライブシーズンに入り需要増加+中国(上海)で新型コロナウイルスによるロックダウンの解除
2022年下半期の下落相場
2022年上半期の上昇相場から、2022年下半期は反転して下落相場へと移行しました。
22年下半期の半年間で約3割以上も下落しています。
2022年下半期に原油価格が下落した要因は、主に以下が挙げられます。
- 世界の原油消費量の約3割以上を占めるアメリカと中国の景気が悪化することで需要減少の観測
- アメリカではインフレ抑制のため利上げ
- 中国ではゼロコロナ政策の継続
まとめ
日本国内における原油価格は、ほぼ全てを輸入に頼っているため、需給バランスのほかに世界各国の景気や政策、為替など様々な影響を受けて変動します。
複合的に様々な要因があるため、価格動向を把握するのは困難ですが、原油生産量の上位3か国(アメリカ・ロシア・サウジアラビア)、原油消費量の上位3か国(アメリカ・中国・インド)は特に注目するポイントですね。
【参考資料】
- 日本経済新聞
本記事は、一級建築士であり設計・積算・工事監理から建築コストコンサルの経験がある著者が、第三者の立場から考察した記事です。