銅の価格が変動する要因を知りたい…。
銅の価格が変動する主な理由
- 世界の銅消費量の約5割を占める中国の景気動向、政策
- 世界の銅需要
- 銅の生産地の情勢、政策
- 100%輸入に頼っているため、為替(円高・円安)の影響が大きい
銅地金の需要は大きく"電線向け"と"伸銅品向け"に分けられており、世界全体でみると約7割が電線向けとされています。
銅の輸入国
日本の銅鉱石は100%輸入に頼っており、輸入相手国の情勢や世界の市場動向を見るのがポイントです。
上図は2021年における銅鉱の輸入国割合を示しています。
銅鉱の輸入量のうち約4割近くをチリ産が占めており、影響が大きいことが分かりますね。
銅の需要
銅の世界最大消費国は中国であり、消費量は世界シェアの約5割にも及びます。
そのため銅の価格は中国の需要に大きな影響を受け、中国の景気が良くなると価格が上昇する傾向にあります。
銅は主に建物の屋内配線や電線、空調機の部品といった不動産・インフラ関連に使われ、自動車関連や半導体など電子部品にも使われる幅広さがあり、これまで景気動向を先取りするような相場の動きを示してきました。
反対に、世界シェアの大半を占める中国の景気動向によって銅の価格の動きが見えてくるともいえますね。
これまでの銅の需要動向
これまで中国において銅の需要に影響をあたえた出来事を下表に示します。
時期目安 | 内容 |
---|---|
2008年11月頃 | リーマンショック後、中国は経済成長のため4兆元(当時の約57兆円)規模の公共投資を打ち出し、銅需要が増加。 |
2014年2月頃 | インフラ関連の銅需要などが増加した。 |
2014年 | 建設分野など実需だけでなく、利ざやを稼ぐ目的の投機的な取引が増加傾向。 |
2015年 | 不動産が過剰在庫をかかえていたため、不動産や電線業者が銀行からの融資が難しく需要を伸び悩んだ。 |
2015年 | 習近平指導部の反腐敗運動により公共投資の実施が遅れた。 |
2016年初頭 | 公共投資の増加で送配電向けの電線需要が盛り上がった。 |
2016年9月頃 | 景況感の悪化による中国の需要低迷を背景に、中国の製錬会社などからアジア各国への地金の輸出が増加した。 |
2017年10月頃 | 環境規制を進める中国当局がゴミの混ざるスクラップ原料の輸入を制限。地金の代替需要が強まった。 |
2019年6月頃 | 景気減速のため銅製品は2018年後半から減少も、環境規制による銅スクラップの減少分を補うため、銅の輸入が増加。 |
2021年8月頃 | 新型コロナウイルス禍からの経済回復が進み、製造業を中心に金属需要が増加した。 |
2022年8月頃 | 中国ではインフラ投資をにらんだ地方債発行が加速している。 |
上記のように近年の中国の動向をみると、銅の実需は伸び悩んでいるものの、政府による公共投資によって下支えされてきた印象がありますね。
新型コロナウイルス感染流行後の2020年以降は、サプライチェーンの混乱や世界的なインフレによって価格が急上昇していた感がありますが、リーマンショックからコロナ前までの中国の実需は停滞していたように思われます。
中国以外の地域に目を向けると、電線は経済成長が続く東南アジアで底堅い需要があり、台湾は太陽光発電、インドは電線ケーブル向けの需要が増加傾向にあるようです。
将来の銅の需要
世界経済の動向を映す「ドクターカッパー」(※copper:銅)とも呼ばれる銅の需要は今後どのように変化していくか気になりますよね。
もちろん、細かい価格変動は"神のみぞ知る"ですが、大きな流れとして下記が考えられるでしょう。
- 脱炭素の流れなどにより電気自動車(EV)や再生エネルギー設備向けの銅需要が伸びていく。
- 銅の価格高騰の影響でアルミニウムへの代替が進む可能性。
電気自動車(EV)向けの需要が増加
電気自動車(EV)はガソリン車の3倍程度の銅を使用するとされています。
国際エネルギー機関(IEA)は、EV関連の銅の世界需要が40年に20年の11倍になると試算しており、EV需要増加に伴う銅の需要増加が予想されます。
再生エネルギー設備向けの需要が増加
電気自動車だけでなく、風力発電や太陽光発電といった再生エネルギー設備の普及により、銅の需要は増加すると考えられます。
銅からアルミニウムへの切り替え
コスト抑制のため、日本国内では銅から調達コストの安いアルミニウムに切り替える動きも出ています。
日本国内の事例
- 関西電力が老朽化が進んで更新時期を迎えた設備に、アルミ電線を全面導入する。2015年度から始め、30年程度かけて全てアルミ電線に交換する方針。
- コスト抑制のため、ダイキン工業などは銅からアルミニウムへの切り替えを急ぐ。(2021年6月)
- 住友電気工業は自動車のワイヤハーネスに使う銅をアルミ合金へ切り替える。(2021年6月)
以上のように既に銅からアルミへと切り替える動きが出ており、今後さらに銅からアルミへの流れが進む可能性もあります。
ただしアルミニウムも太陽光発電向けなどに需要が増加するため、銅からアルミへの代替需要が起こると、今度はアルミニウムの需給がひっ迫して価格上昇を引き起こす可能性も予想できますね。
いずれにしても、銅の需要は今後さらに拡大していくと予想されます。
銅の供給
需要の拡大により価格は上昇傾向になりますが、供給量の増減によっても価格は影響を受けます。
これまで銅の供給に影響をあたえた出来事を下表に示します。
時期目安 | 内容 |
---|---|
2014年頃 | 原料の銅鉱石は余っているものの、精錬の処理能力が足りていない。 |
2016年頃 | 銅は採掘可能年数が15年程度との調査結果もあり、資源の枯渇が懸念される。 |
2017年2月頃 | チリの世界最大規模のエスコンディーダ銅山でストライキが発生。 |
2017年2月頃 | インドネシア政府が未加工の銅鉱山の輸出を停止し、世界2位の生産量を持つ銅山で供給不安が発生。 |
2019年6月頃 | チリ公社コデルコのチュキカマタ鉱山で労働者のストライキが発生。 |
2022年5月頃 | ロシアウクライナ戦争の影響で、世界生産の約4%を占めるロシア産の供給が懸念。 |
2022年8月頃 | 三菱商事が出資するペルーのケジャベコ銅鉱山が稼働し、鉱石供給が一時的に増える見込み。 |
南米やインドネシアなどの生産地では、ストライキが起きたり輸出が制限されるなど、一時的に供給が不安定になり価格に影響をあたえることがあります。
脱炭素を背景に、世界的に電気自動車(EV)や再生エネルギー設備などへ銅の需要が伸びているなか、資源の枯渇も予想され、数十年後には銅は希少な"レアメタル"になるとも言われています。
需要の増減に関わらず、供給の絶対量が減少することで長期的に価格は上昇基調で推移していくと予想されます。
銅建値の価格動向
JX金属が公表している銅建値の価格動向を上図に示します。
2015年5月~2016年9月の下落相場
2015年5月~2016年10月までの14か月で、銅建値の価格(JX金属)は約35%下落しました。
この時期に銅の価格が下落していた理由は下記のように考えられます。
- ペルーなどの鉱山や精錬所で鉱石や銅地金を増産する動きがあった。
- 中国政府による送配電網の整備計画などにより中国内の銅需要の増加が期待されていたが、想定よりも需要が伸びなかった。
- 上記については、送配電網に使われる電線はアルミが多いという理由もある。
- 中国において、銅導体の配線が使われる建築需要が低調であった。
特別大きな情勢変化があった訳ではないものの、世界需要の約50%を占めていた中国における銅需要低下の影響が非常に大きく、合わせて銅地金の供給量も十分に確保されていたことで、供給>需要となり価格が下落したということですね。
2016年10月~2018年1月の上昇相場
2016年10月~2018年1月までの16か月間で、銅建値の価格(JX金属)は約57%上昇しました。
この時期に銅の価格が上昇していた理由は下記のように考えられます。
- 2017年初頭には、中国の輸入量増加が背景にあり、銅の国際価格が上昇していた。
- 2017年1月12日にインドネシア政府が未加工の銅鉱山の輸出を停止し、世界2位の生産量を持つ銅山で供給不安が発生。
- 上記同時期にチリの世界最大規模の銅山「エスコンデーダ銅山」(世界全体の約6%の生産量)でストライキが行われた。
- 2017年3月~4月頃には中国において銅の需要が減少する見立てが広がり、一時的に価格が下落。
- しかし2017年5月以降は、再び中国において銅の需要が増加する観測に切り替わるとともに、アジアでのインフラ設備需要の高まり、欧州での景気回復が重なり、銅の需要増加から価格が上昇した。
- 実際に2017年3Q~4Qにかけて中国で建設向けの銅需要が拡大するとともに、価格上昇を予測した投機マネーも流入したことで、2018年初頭まで銅の価格上昇が進んだ。
中国の需要増減の影響が非常に強く、世界の銅価格に影響をあたえていることが分かりますね。
2018年2月~2020年4月の下落相場
2018年2月~2020年4月の期間は上下動を繰り返しながら、長期的にみると銅価格が下落傾向にあった時期です。
この時期に銅の価格が変動していた理由は下記のように考えられます。
- 2018年第三四半期ごろは銅価格が下落しており、米中貿易摩擦による中国経済悪化への懸念が広がった背景があった。
- 上記に加えて、2018年8月にトルコ通貨が急落したことでドル高が進み、ドル高で取引する銅の割高感が強まったことで銅の売りが広がった影響もあった。
- 2019年第一四半期ごろは米中貿易摩擦の協議進展の期待から中国の銅需要が増加する観測が高まり、アメリカの利上げ休止観測も後押し、銅価格は一時上昇に転じた。
- 2019年6月以降は中国の銅需要が鈍く、短期的な上下動を繰り返しながら、価格は下落傾向にあった。
- 2020年1月頃には中国で新型コロナウイルスの感染が広がり、サプライチェーンが混乱、需要減少の懸念により価格が大きく下落した。
米中貿易摩擦など中国経済が低調なときに、新型コロナウイルス感染拡大によってさらに経済が停滞したイメージですね。
2020年5月~2022年4月の上昇相場
2020年5月~2021年5月頃の1年間は、近年で最も価格が急上昇した時期でした。
その後、一時的に価格は下落するも、再び上昇し2022年4月には過去15年間で最高値を更新しました。
この時期に銅の価格が上昇していた理由は下記のように考えられます。
- 新型コロナウイルス感染が世界的に流行したあと、感染拡大が一服した中国やワクチン接種が進んだ欧米で経済活動が再開し需要が伸びた。
- 2021年上期には世界的に脱炭素の機運が高まり、電気自動車(EV)向けの需要を予測した投機マネーが流入した。
- 新型コロナウイルス禍から経済回復が進んだことで、製造業を中心に銅の需要が増え価格が上昇した。
2022年5月以降の相場
2022年4月に高止まり後、下落するも現在の価格は高値圏を維持しています。
米欧の中央銀行がインフレ抑制のために利上げを行い景気減速が懸念されています。
まとめ
銅の価格は、これまで世界シェアの約5割を占める中国の景気動向の影響を大きく受けて変動してきました。
そのため銅の価格動向を把握するためには、基本的に中国の市場動向を観察するのが一番でしょう。
その上で銅鉱石の生産地で供給不安が起こらないか注視します。
加えて、銅が使われる電気自動車(EV)や再生エネルギー設備など成長分野が今後どうなっていくのか見るのがポイントとなります。
【参考資料】
- 非金属業界大研究(産学社)
本記事は、一級建築士であり設計・積算・工事監理から建築コストコンサルの経験がある著者が、第三者の立場から考察した記事です。