生コンクリートの原材料として使われる"骨材"とは砕石のことで、砂を"細骨材"、砂利を"粗骨材"と呼んで粒の大きさで区別されています。
骨材が生コンの原材料に占める割合は、おおむね体積ベースで7割、コストベースで5割強を占めています。(参考:日経新聞|2020年7月30日記事)
骨材の価格上昇の主な要因
- 運転手不足(輸送費の上昇)
- 生産コストの上昇(燃料費の高騰)
- 骨材事業の縮小による供給不足
- 突発的な需要の増加
- 骨材メーカーの事業継続のための値上げ
近年の骨材価格推移
骨材の価格は、骨材を原材料として作られる生コンクリートと同様に、価格変動には地域差があります。(参考:コンクリートの価格が上昇する理由)
生コンと同様に骨材も地産地消が原則となっていることが影響しています。(首都圏や阪神圏では遠方からも骨材が供給されている)
例えば上図を見ると、札幌の骨材価格は、2015年から毎年のように大きく価格が上昇していることが分かりますね。
これは2030年度に向けた新幹線の札幌延伸工事によって需要が増加した影響があると考えられます。
"工事が行われる地域"の地元業者で対応するのが慣例のため、その地域の生産能力を超える需要が発生すると、需給バランスで価格が上昇するイメージです。
運転手不足
骨材に限らず、どの分野でもドライバー不足が叫ばれていますね。
骨材の運搬は過酷な労働でありながら待遇が悪く、特に人手が集まりにくいと言われています。
そして少子高齢化による働き手の絶対数の減少も、不足につながる要因です。
骨材(砕石)製造の流れ
- 剥土(はくど)で岩盤表面の土や石を取り除きます。
- 起砕(きさい)により①で表れた岩盤を小さくなるように砕きます。
- ②の砕石を骨材(砕石)製造工場へ運びます。
- 工場では骨材をさらに小さく破砕し、粒の大きさによってふるい分けします。
- 製造された骨材は工事現場やコンクリート(アスファルト)工場へと運ばれます。
骨材には採取される場所によって様々な種類がありますが、コンクリート原材料としてよく使われる"砕石"の製造の流れは上記の通りです。
③および⑤の工程で骨材(砕石)を運ぶときの運転手が不足しているため、給与を上げないと運転手が集まらないというわけですね。
骨材事業の縮小による供給不足
近年、骨材の価格が上がりやすい背景には、骨材需要の減少によって供給者(骨材メーカー)の数も大きく減少していることも理由にあります。
需要が落ちこんでいるなら、供給>需要になって価格が低下することも考えられますが、同時に事業者数も大きく減少している事実があるのです。
経済産業省の統計データによると、1998年度から2016年度にかけて、骨材の需要は約50%減少した一方で、総事業者数は約25%減少しています。
突発的な需要の増加
1990年代のバブル期から骨材の需要が大きく低下したことで、骨材の事業者は廃業や縮小が相次ぎました。
骨材を供給できる業者数が減ったことで、今度は需要が急に増えたときに対応が難しくなるのです。
例えば近年、札幌(北海道)の骨材価格は他地域とくらべて顕著に上昇しています。(参照:近年の骨材価格推移)
これには2030年度に向けた新幹線の札幌延伸工事によって需要が増加したことが影響とされています。
上記のように、長年の骨材需要の低下によって骨材を供給できる業者が減っているところに、生産能力以上の需要がやってくると、生産が追いつかなくなり価格上昇につながるのです。
設備の老朽化
1990年代の旺盛な骨材需要が減少するとともに、工場設備の老朽化が進行しています。
老朽設備を更新することで生産能力を高めることができますが、経営が厳しくお金に余裕のない骨材業者にとっては苦しい投資ですね。
日本全体でみると骨材需要が縮小傾向にあるなか、大型工事によって特定地域の需要が一時的に増加しているだけであり、骨材業者にとっては先行き不透明な見通しは変わりません。
設備更新による初期投資の負担が大きく、設備を大型化すると燃料費などの設備維持コストも増加してしまいます。
骨材業者の事業継続のための値上げ
長年にわたって骨材の需要が減少し、骨材業者の収益が厳しいなか、輸送コストや電気代の上昇が拍車をかけて経営を圧迫しています。
骨材業者のコスト削減には限界があり、事業継続のためには値上げせざるを得ない状況といえます。
需要家の生コン業者やゼネコンにとっても、骨材業者が倒産してしまうと生コンクリートの生産が途絶えてしまうため、値上げを受け入れざるを得ないということですね。
年月 | 会社名 | 内容 | 理由 |
---|---|---|---|
2012年 | 人の森 | 500円/t 値上げ → 150円程度が浸透 | 電力代、設備修繕費 |
2014年春 | デイ・シイ | 100~150円/t 値上げ | ダンプ運転手の人件費上昇など |
2014年10月 | デイ・シイ | 150~200円/t 値上げ(+5~7%程度) | ダンプ運転手の人件費上昇など |
2015年4月 | 人の森 | 500円/t 値上げの方針 | 電気代や人件費の上昇を転嫁 |
2015年4月 | デイ・シイ | 値上げの方針 | 電気代や人件費の上昇を転嫁 |
2015年4月 | 藤坂 | 値上げの方針 | 電気代や人件費の上昇を転嫁 |
2016年10月 | 近畿の業者 | 平均で500円/t値上げ | 骨材の安定供給体制構築 |
2018年4月 | 丸和建材社 | 4月出荷分から細骨材を最大450円/t 値上げ | 原砂山の開発費の改修や物流体制の維持(運賃引き上げ)、骨材調達コスト上昇、老朽設備の更新など |
2019年秋 | 千葉県の某社 | 値上げ後、2年で200円程度浸透 | ダンプ運転手の人件費上昇など |
2020年4月 | 埼玉県の某社 | 500~600円/t 値上げ要請 | ダンプ運転手の人件費上昇など |
2020年9月 | 千葉県の某社 | 300円/t(+1割)の値上げ要請 | ダンプ運転手の人件費上昇など |
2022年4月 | 西日本砂、砂利販売協組 | 4月1日からコンクリート用海砂の共販価格を500円/t 値上げ | 経営環境改善のため |
2022年4月 | 山梨砂利連組合 | 骨材を500円/t程度値上げ | 生産(燃料費)・輸送コストの上昇など |
2022年4月 | 香川県砕石協組 | 4月1日から砕石価格を300~500円/t 値上げ | 骨材の安定供給を維持するため |
2022年4月 | 大阪府砂利石材協組 | 4月1日出荷分から大阪広域生コン協組に販売する骨材を200円/t程度値上げ | 生産(燃料費)・輸送コストの上昇など |
2022年4月 | 岐阜・名古屋骨販協組 | 4月出荷分から200~500円/t 値上げ | 生産(燃料費)・輸送コストの上昇など |
2022年4月 | 千葉石産 | 4月1日出荷分から生コン用骨材など10~15%引き上げ | 生産(燃料費)・輸送コストの上昇など |
2022年4月 | 十勝骨材共販協組 | 4月1日受注分から300円/t 値上げ | 経営環境改善のため |
2022年7月 | 岩手県中央砕石協組 | 7月出荷分から砕石全般を20%値上げ | 生産(燃料費)・輸送コストの上昇など |
2022年7月 | 熊本砕石共販協組 | 7月から取引単価(品代)を200円/㎥、持ち込みで300円値上げ | 燃料費の高騰や働き方改革への対応 |
2022年8月 | 群馬県砕石工業組合 | 8月1日から砕石全般を300円/t 値上げ | 生産(燃料費)・輸送コストの上昇など |
2022年10月 | 札幌砕石共販組合 | 10月1日から砕石価格を500円/t 値上げ | 生産(燃料費)・輸送コストの上昇など |
2022年10月 | 丸和建材社 | 10月1日出荷分から生コン用細骨材を500~1,000円/t 値上げ | 燃料費の高騰による生産費や物流費の上昇、資源枯渇、粗粒度調整用の粗目砂購入費の上昇など |
まとめ
近年の骨材価格の上昇要因は、下記のようにまとめられます。
- 1990年代バブル期のピーク時から年々骨材の需要が縮小し、骨材事業者が大きく減少。
- 骨材需要の減少とビジネス構造から、骨材事業者の経営環境は悪化。
- 経営環境が改善されず先行き見通しも暗いため、設備投資には消極的、生産能力が上がらない。
- 少子高齢化や労働環境の悪さ、働き方改革の影響などにより運転手不足、輸送コストが上昇。
- エネルギー価格の高騰による、生産コストの上昇。
- 大型工事によって特定地域で需要が増加するも、対応能力の限界。
【参考資料】
- コンクリート新聞
- セメント新聞社