本記事では、建築・土木資材として使われる鉄筋の価格が変動する要因を解説していきます。
鉄筋の価格変動の主な要因
- 主原料の鉄スクラップの価格変動
- 鉄スクラップを溶かして鉄筋をつくるときにかかる燃料コスト
- 国内の鉄筋が使われる建築物・土木構造物の需要
鉄筋と鉄スクラップの関係
鉄筋の価格が変動する理由は、「鉄スクラップ」の価格変動が大きな要因を占めています。
上図のように、鉄筋は市中や工場で発生した鉄スクラップを集め、電炉で溶かして製造されます。
電炉業界では、鉄スクラップが原価の半分ほどを占めるとも言われています。
鉄筋は鉄スクラップを原料に製造されているため、鉄スクラップ価格の影響が大きいのです。
では具体的に鉄筋と鉄スクラップの価格の相関を上図で見てみましょう。
鉄筋と鉄スクラップは同じような価格変動で推移していることがわかります。
鉄筋は鉄スクラップを原料として作られているため、鉄筋価格の動向を把握するためには、鉄スクラップの需要と供給のバランスを見るのが基本となります。
近年の鉄筋価格の推移を見てみましょう。
上図のとおり、2021年頃から急激に鉄筋の価格が上昇していることがわかります。
では、なぜ価格上昇が起こったのか?そのメカニズムを下記で解説します。
鉄筋は、建設解体工事や工場で発生した"鉄スクラップ"を電炉で溶かして製造されますが、鉄スクラップは、上図のとおり問屋や商社を仲介して"電炉メーカー"へ販売されます。
鉄筋の価格は原料の鉄スクラップの価格で決まるため、鉄スクラップの需要と供給バランスを見るのがポイントです。
2021年初頭に鉄筋価格が上昇したときは、下記の状況で鉄スクラップの需要が供給を大きく上回り、鉄スクラップ価格が上昇した結果、鉄筋価格の高騰につながったと考えられます。
- コロナ禍による経済停滞により解体工事などが少なく、国内の鉄スクラップの発生量が少なかった。
- 中国が環境対応を理由に鉄スクラップを積極活用する方向へ転換し、これまで中国で輸入禁止されていた鉄スクラップが規制緩和。その結果、日本産の鉄スクラップの国外からの需要が増加。
- 国内で鉄スクラップ発生量が少ないなか、国外からの需要が増加したため、電炉メーカーは必要量を確保するために鉄スクラップの購入価格を引き上げ、鉄筋価格に転嫁された。
燃料価格の変動
鉄筋の原料となる鉄スクラップの価格変動は、鉄筋価格に直接的に影響をあたえますが、鉄スクラップを溶かすために使う燃料も鉄筋価格に影響があります。
電気料金
電炉は、製造工程で鉄スクラップを溶かすときに大量の電気を使います。
電気代は電炉の製造原価の約1割を占めていて、昨今の電気料金の高騰は電炉メーカーにとって無視できないものとなっています。
実際に2022年10月には、大手の合同製鉄の販売会社がエネルギーコストの上昇を理由に製品の値上げを行った事例もありました。
人造黒鉛電極
黒鉛電極は、鉄スクラップを溶かすときに使われる副原料です。
黒鉛は熱伝導率が高く耐熱性に優れ、電気抵抗が低いので、大きな電流を流すことで鉄を溶かすことができます。
人造黒鉛電極の価格は、2018年から2019年にかけて急上昇し、黒鉛電極を使用する電炉メーカーの採算を悪化させる要因となりました。
電炉メーカーの採算が悪化するということは、経営を立て直すために製品の鉄筋を値上げする方向へ圧力が働くわけですね。
フェロシリコン
フェロシリコンはケイ素と鉄の化合物で、鉄筋をつくる際に副原料(脱酸材)として使われる材料です。
フェロシリコンの価格は2021年頃から急上昇しており、鉄筋価格にも少なからず影響をあたえていると考えられます。
フェロシリコンは現在日本では生産されておらず、中国やロシア、マレーシア、ブラジルからの輸入が大半を占めています。
2021年のフェロシリコンの価格上昇は、中国における電力制限によって供給が落ち込んだことが要因とされています。
国内の建設需要
国内で鉄筋が使われる建築物や土木構造物の需要がどの程度あるのか?も鉄筋の価格に影響をあたえます。
主に鉄筋が使われる建築物の着工床面積
上図は日本国内における鉄筋コンクリート造(RC造)と鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)の着工床面積(新築)の推移を示したグラフです。
高度経済成長期の1970年代前半や、バブル期の1980年代後半~1990年代初頭と比べると、現在はRC造・SRC造の建築物着工が激減していることがわかりますね。
また2000年代でピークだった2006年の着工床面積と比べても、現在は半減しています。
単純に考えると、鉄筋が使われる建築物の新築数が減っているので、鉄筋の需要は落ちこみ、価格が下落する方向と予想できますよね。
鉄筋の生産量と市中価格
では、上図で近年の鉄筋(小型棒鋼)の生産量と市中価格の推移を見てみましょう。
※小形棒鋼は鉄筋のなかで大半を占めている形状の種類です。
生産量は2009年度以降、多少の上下動はあるものの、比較的安定して推移していることが分かりますね。
上図の生産量は建築だけでなく土木構造物に使われる鉄筋も含まれているので、建築物の着工床面積の推移に土木に使われる鉄筋を加えたイメージと考えてもらえればOKです。
次に生産量に対する小形棒鋼の市中価格を見てみましょう。
2007年度~2019年度までは、生産量が減ると価格が下がり、生産量が増えると価格が上がる傾向があり、基本的には需要と供給のバランスで価格が変動していることが分かりますね。
ところが2020年のコロナ禍以降、2021年から鉄筋価格に異変が起こったのです。
年度 | 生産量(千t) | 市中価格(千円/t) |
---|---|---|
2019年度 | 8,026 | 65 |
2020年度 | 7,629 | 79 |
2021年度 | 7,761 | 110 |
2022年度 | 7,613 | 118 |
2023年度 | 7,369 | 115 |
2020年度は生産量が前年度比−5.0%減少しましたが、市中価格は同+21.5%上昇、2021年度は生産量が同+1.7%と微増、市中価格は同+39.2%と大幅上昇し、2022年度は生産量が同-1.9%ですが、市中価格は同+7.3%と上昇しています。
生産量が減少あるいは微増にも関わらず価格が大幅上昇しているのは、国内の需給バランス以上に、海外市場の影響を受けた原材料(参照:鉄筋と鉄スクラップの関係)や燃料の高騰の影響が大きかったと言えます。
2023年度は価格高騰が落ち着き、生産量の減少に伴い市中価格も下落しています。
まとめ
鉄筋の価格は、需要(国内で建設される鉄筋コンクリート造の建物や鉄筋が使われる土木構造物)が大きいと価格が上昇し、需要が少ないと価格が下落へ向かうのが基本的な考えかたですが、近年は需要と供給の関係よりも、原材料や燃料の値動きが激しく、製品価格に大きな影響を及ぼしているのが特徴と考えられます。
近年は鉄筋コンクリート造(RC造)の建設需要は多いとは言えず、単純な需給バランスで考えると価格は上昇する機運にありません。
しかし原材料コストが無視できないほど上昇しているため、メーカーの経営が厳しくなり価格転嫁への圧力となっているのが現状です。
鉄筋価格の動向を把握するためには、国内の建築土木の需要のほかに下記に注意しましょう。
- 鉄スクラップ
- 電力料金
- 黒鉛電極
- フェロシリコン
【参考資料】